生成発展 テクノロジーで変革する中小企業の未来

様々な家具のテンプレートが用意されており、このテンプレートを使って自由に設計できる(提供:VUILD)

様々な家具のテンプレートが用意されており、このテンプレートを使って自由に設計できる(提供:VUILD)

好きな産地木材で自分だけの家具

多くの消費者を抱える都市と家具の原料となる木材の産地とをデジタル技術でつないだ新ビジネスが始まった。新しい住環境を創り出すスタートアップ企業、VUILD(ヴィルド、本社・川崎市)がオリジナル家具をつくるプラットホーム「EMARF(エマーフ)」を4月10日から本格的に稼働させた。デジタル技術が時空を超えたものづくりを可能にしたと言える。

文・写真:Gemba Lab代表 安井孝之

このプラットホームには地方の製材業者や工務店、ホームセンターなどが加わった。ユーザーは自宅のPCなどで作りたい家具を設計し、つくってほしい業者にデータを送り、自分が欲しい家具をつくってもらう仕組みだ。このプラットホームには地方自治体も関心を示しており、地方創生への足掛かりになるのではないかと期待されている。

―― PCで設計、あとは自動木材加工機で

EMARFの工房で使う自動木材加工機「ShotBot」。標準的な機能を持つ機種で1台500万円程度

EMARFの仕組みはこうだ。

① ユーザーはパソコン上で何種類かの家具のテンプレートを選んだうえで、自分の好みや家のスペースに合わせて大きさなどを決め、デザインを決定。

② データをコンピューター数値制御の自動木材加工機「ShotBot」を保有する全国35カ所(現時点では5カ所)の工房に送る。工房ではユーザーが指定した材料を使い、家具の部材を加工する。

③ 組み立てはユーザーが部材を加工した工房に出向き、工房オーナーに手伝ってもらいながら完成させるか、部材を自宅に送ってもらい、自分で組み立てる。

消費者は家の事情に応じて、使い勝手のいいオリジナル家具がつくれるようになる。また、使う木材の産地を指定し、応援したい産地に貢献できる。価格はパソコンで設計する途中にデザインや材料を選択すると、それに応じて価格が表示される。価格には加工費と材料費を含めた製造原価と工房オーナーの利益、デザイン料、システム使用料が含まれ、杉の小さな腰掛けなら2万円程度(配送料別)でつくることができる。

加工を依頼する工房も選べる。自宅近くの工房を選べば、家族一緒にその工房で組み立てることができる。いわば家族でオリジナル家具のワークショップに参加するようなイメージだ。また、地方ブランドの木材でつくりたい場合は、北海道から九州まで35カ所の工房から産地近くの工房を選び、加工を任せることができる。その場合は加工された材料を自宅まで配送してもらい、自宅で組み立てる。

VUILD代表取締役の秋吉浩気さん

―― 岩手・花巻、熊本・阿蘇などに続々工房が開設

VUILD代表取締役の秋吉浩気さんは「2020年までに工房の数を100カ所に増やしたい。2023年には1千カ所を目指す」と言う。ユーザーの住まい近くに工房ができれば、ユーザーが気軽に工房で組み立てできるようになるほか、自宅で組み立てる場合も配送料が安くなる。また地元産の材木を使えば、家具の地産地消が可能になり、地元産業を支援できる。

今後の取り組みとして秋吉さんは「家具など製作物のテンプレートを拡大し、インテリアだけではなく住宅関連の部材などにもプラットホームを広げ、都市空間の創造にも役立てたい」と語るとともに、「ユーザーが現在のプラットホームを使うことで、より使いやすいデザインなどを考案し、ユーザーの使い勝手も良くしていきたい」と話す。

「EMARF」の記者発表会には、VUILD代表取締役の秋吉浩気さん(右から3人目)のほか、富山県南砺市長の田中幹夫さん(同2人目)、LIFULL社長の井上高志さん(同4人目)や地方の工房オーナーらが参加した

都市空間の創造としては、すでに家具作りだけでなく、富山県南砺市では地域の木材と合掌造りの伝統を生かす「まれびとの家」計画が進んでいる。東京での発表会に出席した南砺市長の田中幹夫さんは「80%が山の南砺市にはShotBotを保有する工房もあり、木もふんだんにある。現代版合掌造りといえる『まれびとの家』ができることを期待している」と話した。

南砺市のようにEMARFのプラットホームを活用すると、地方の産地の木材に付加価値をつけ、家具や住宅として全国に供給することができる。またプラットホームに参加した製材業者や工務店にとっては、新規事業の創出につながる。こうした好循環が生まれれば、地域に雇用を生み、地域経済を活性化するのではないかと期待される。

すでに岩手県花巻市の小友木材店や、熊本県南小国町のファブラボ阿蘇南小国など、地方にShotBot工房ができたほか、VUILDに出資しているLIFULL(ライフル)の本社内やホームセンターのカインズ5店舗にはShotBotが導入されている。地方にも都市にもネットワークが広がることで、都市と地方の連携が進む可能性もある。

―― デジタル・ファブリケーションによる変革

VUILDは2017年に創業したスタートアップ企業。秋吉さんは大学で建築を学び、その後、慶応義塾大大学院政策・メディア研究科でデジタル・ファブリケーションを専攻した。消費者が家を建てる時、多くは専門家である建築士や大工などのプロに任せてつくってもらう。つまり消費者がプロに支配されている世界だったのだ。秋吉さんはその関係を「好きな時に好きな場所で、その場の素材を用いて、生活に必要な家具や建築物を自分の力でパッとつくることができる世界に変えたい」と言う。

世界を変えようと秋吉さんが注目した技術がデジタル・ファブリケーションだった。一人ひとりのアイデアをモノとして具体化するデジタル技術だ。3Dスキャナーや3DCADのような測定機械で自分のアイデアをデジタルデータ化し、3DプリンターやEMARFで使うShotBotのようなデジタル工作機械が、モノにつくり上げる。デジタル・ファブリケーションは専門的な知識や技術がなくてもモノがつくれるようになる「モノづくりの民主化」をもたらす技術だと考えられている。

ShotBotに設計データを入力し、木材を加工する。三角の椅子の場合、10分足らずですべての部材が切削できた

VUILDはEMARFの拠点となる工房が導入している自動木材加工機ShotBotの販売代理店でもある。ShotBotは1996年創業の米国企業が開発し、全世界に7千台近くが販売されている。デジタル・ファブリケーションを学んでいたころ、秋吉さんはShotBotに出会い、日本での普及に弾みをつけた。

今回のEMARFの稼働で、全国に散らばる工房がネットワークを築き、そのプラットホームの上で、消費者と全国の工房、木材産地がつながり、時空を超えた生産システムを築くことができた。VUILDに出資し、自社にもShotBotを導入しているLIFULL社長の井上高志さんは「建築、木工の世界を民主化するサービスです。それぞれの地域の木材を活用するため、地球環境にも優しい。地方の工務店や材木店、家具デザイナーなどが参加できる新しい産業を生み出す可能性がある」と話す。

創業から2年足らずのスタートアップ企業が、デジタル技術を使い、家具業界、建築業界に変革を起こそうとしている。

VUILD(ヴィルド)株式会社
本社:川崎市川崎区日進町3-4 unico1F-A
資本金:5,500万円
創業:2017年11月
事業内容:デジタル・ファブリケーション技術を活用した設計・施工
関連サイト: https://VUILD.co.jp/

代表取締役:
秋吉 浩気(あきよし・こうき)

1988年、大阪府生まれ。芝浦工業大工学部建築学科卒業、慶応義塾大大学院政策・メディア研究科修了。日本建築学会建築雑誌編集委員。若手建築家の登竜門「SDレビュー2018」入選。2017年11月、VUILDを創業し、代表利取締役に。

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