生成発展 テクノロジーで変革する中小企業の未来

第一歩は社長の予定管理から

ICT(情報通信技術)を導入しないと、この先の経営は厳しいですよ、なんてことを言われても、どうしていいのかわからない。そんな中小企業の経営者の心強い相談相手となるのが、「ITコーディネーター」です。東京都の荒川区や墨田区で活動するITコーディネーター、廣木秀之さん(51)に、ICTを導入する際のポイントを聞きました。要点さえ押さえれば、ICTは怖くありません。

聞き手:内山まり
写真:松嶋愛

――どんな相談が多いですか。

もっとも多い相談はホームページについてです。といっても、新規の作成依頼は多くありません。それよりも、「すでにホームページを作っているが、お客様に見てもらえない」という相談が多い。以前はホームページを作りさえすれば見てもらえましたが、今はつたない印象を与えてしまうと、どんどん他社のサイトに移られてしまいます。そこで、「どこをどう改善すればいいのか」という相談から始まり、ホームページを見にいらっしゃる方のデータを解析して、訪問者の性別や年代に合わせた色や表現にしてリデザインするなど、改善していきます。訪問者の目線で作成しなければ、せっかく作っても空回りしてしまいます。

半年や3カ月に一度、定期的にホームページへのアクセス解析データを分析し、改善する企業もあります。お客様の8割くらいがスマートフォンユーザーという業種の場合、ホームページはスマートフォン対応でなければ立ちゆきません。パソコン(PC)ユーザーのことだけ考えていればよかった当時のホームページのままでは、訪問者数が減るのは当然です。ホームページは生き物のようなもの。こまめに手をかけることで、より効果を発揮します。

次に多い相談は、社内のシステムをどうにかしたいが、IT関連の助成金を使えないか、という話です。近年、「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」といった中小企業向けの補助金や助成金が充実しています。それぞれ期間や条件、補助金額が異なるので、これらをうまく使って業務改善できないかという相談です。同じ都内でも、地域によって異なりますので、一度、所在地の市区町村で公的機関の中小企業向けの補助金や助成金を調べてみるのもいいと思います。

このほかに多いのは、「ソフトを入れて業務を効率化したい」といった相談です。たとえば、クラウド(データやソフトウェアをインターネットを通じて管理する技術)を使い、従業員が社外にいても必要なデータや文書にアクセスして、社内にいるのと同じように仕事をできるようにしたい。家族を介護している従業員がクラウドを利用して家でも仕事ができるようにしたい、といった相談ですね。

――最近、クラウドを利用する企業が増えていますね。メリットは?

東日本大震災でPCが壊れ、業務が滞った企業がありました。データが消失したという被害もありました。こうした災害の教訓から、有事の際も事業を継続できるようにしておこうというのが、クラウド導入のひとつの狙いです。もう一つは、テレワークの普及ですね。クラウドなら、どこからでも必要なデータにアクセスでき、仕事ができますから。

――とても便利ですが、難点はありますか。

クラウドに限らず、どんなシステムでも、いきなり全社展開しようとすると、だいたい誰かが異論を唱えるものです。であれば、たとえば社長の目が届く範囲の事務所内から導入してみるなど、スタートの仕方をひと工夫すればいい。何人かで使ってみて、使い勝手のいいところはもちろん、悪いところも必ず出てきます。そこを運用でどうカバーするかを考えてください、と話しています。

クラウド導入するとき、経営者がいちばん気にするのは資金面です。多くの場合、月額固定での支払いとなりますが、新しいシステムを「資産」として導入したい。つまり、1回だけ支払い、固定費にしたくない、という経営者が少なくないように思います。毎月の支出は、業績がいいときは気になりませんが、悪いときには負担になります。とくに、リーマン・ショックを経験していらっしゃる経営者は、従業員の毎月の給与の支払いもままならない経験をしている。少しでも定常的な経費を圧縮したいというのが本音でしょう。

――月額課金のサービスは増えていますが、そうしたサービスに抵抗感を持つ経営者には、どうアドバイスしているのですか。

導入に抵抗感があるということは、切羽詰まってクラウドを導入する必要性を感じていないということですから、いったん置いておきます。とりあえずは、何かのきっかけがあれば踏み出せるようにとも思うので、まずはGoogleドライブやOneDrive、Dropboxなど、無料、あるいは廉価なクラウドサービスを紹介しています。LINEの無料通話を使って仕事の連絡をとるのも、ICT導入です。

――ICT導入の一歩は、低予算でも踏み出せると?

今でも取引先やお客様とファクスでやりとりしている企業があります。ペーパーレスにして全部をデータ化すれば、お客様からの過去のデータをいつでも引き出すことができる。どこからか送られてくる営業のファクスを紙でプリントアウトしないようにすれば、資源の無駄を省くことができる。そうしたことは、事務所にある複合機の設定を少し変更するだけで可能なのです。そういう細かいところから始めるのは、とても良いことだと思います。

導入したコピー機が複合機であることは少なくありません。スキャン機能の使い方をご存じなかったり、ファクス回線やインターネット回線と接続せずに放置していたりして、操作方法がわからずに立ち止まっている。これではせっかく複合機があっても、宝の持ち腐れです。

問題は、企業のやる気です。複合機の有効な使い方を伝えても、「全然わからない」と耳をふさいでしまう。すぐに効果を実感でき、次の段階に進めるかもしれないのに残念なことです。「今まで通りのことを今まで通りやり続けていたい」という経営者は少なくなく、難しいところです。

――本格的にICTを導入するには、どのくらいの費用がかかりますか。

ものによります。自分たちで勉強してスキルを身につければ、それなりに費用を抑えることができます。一方、オペレーションなどを外部の業者に丸投げすると、技術料プラス人件費でドンと大きな費用になることもあります。自社でどこまで取り組むかが決め手です。

とはいえ、できるだけ費用を抑えたいというのが本音ではないでしょうか。まずは国や地方公共団体、金融機関、商工会議所などの制度をうまく活用し、ITコーディネーターのような専門家に相談してみてはいかがでしょうか。プロの意見を採り入れるのが、導入への近道だと思います。その際、それぞれの制度によって、相談の時間や回数が異なるので気をつけてください。

――専門家に相談をするには、自分の会社に何が足りないのか、まずは問題意識を持つことが大事ですね。

ある程度、問題意識を持っている経営者でないと、そもそも専門家のところに相談にいらっしゃいません。難しいところですね。一般論ですが、業務効率化について言えば、製造業は比較的シビアに対策を講じています。それに比べ、サービス業はそれほど効率化を意識していないような感じがします。製造業は少しでもコストを安く抑えるため、いかに効率化するか考えている。納入先のメーカーで新しいICTが導入されると、足並みをそろえなくてはいけない。ところが、サービス業は自らの技術力を高めて顧客へのサービスレベルを上げることには熱心ですが、ICTを採り入れて効率化しようという発想にはならない。

小売店もサービス業と似たところがあります。たとえば、最近はタブレット端末で使うPOSレジアプリが出てきました。先日も問い合わせがあったので、行ってひと通り説明したのですが、「やっぱり、今までと違うんですよね」と、導入に後ろ向きな反応でした。レジを締めた後、紙の伝票を持って事務所で集計し、在庫は月末に目視で確認する。それがタブレット端末で売り上げや在庫の管理ができ、リアルタイムで複数の店舗の売り上げを把握できるようになります。効率がアップすることは容易にわかるはずなんですが……。

――ICTを導入するときの注意点は?

たとえば、POSレジを導入する場合、人気の機種を紹介しますが、必ず「デモでもいいから、ご自身で一度、現物を見てください」とお願いしています。そうでないと、買ったのはいいけれど、自分の業種では使い勝手が悪いということが起きます。自社に100%フィットする既製の機種があればいいですが、そうでない場合、何割くらいを運用でカバーでき、トータルとしてどのくらい効率が上がるのか、考えていただきます。

――ICT導入によってブレークスルーが起き、大幅に業績を伸ばす企業があります。成功の秘訣は?

中小企業の場合、経営者のやる気が大きいですね。導入する途中で、「本当にメリットがあるのか」と疑問視する声が必ず生じますが、経営者が音頭を取っていれば前に進みます。経営者がいきなり動き始めると、「えっ、何をおっしゃっているんですか、社長!?」みたいに、周りが驚くことも少なくありません。それでも、経営者の裁量は大きいですから、動きが速い。ただ、号令をかけたはいいが、社員に任せっぱなしにしていると、頓挫しかねません。導入したICTのツールを使いこなせる従業員がいるかどうかも大事です。

――年齢的にICT導入に二の足を踏まれる経営者もいらっしゃるのでは?

実年齢というよりも、新しいことに挑戦する気持ちや感性の若さみたいなものが大きいのではないでしょうか。

年齢とPCの関連性でいえば、だいたい20年前くらいに電子メールが一般化しています。60代はPCに慣れている人と慣れていない人に分かれます。会社勤めしたことのある人は、PCでメールや文書作成、表計算をできないことには仕事にならなかった。ところが、若くして家業に入り、PCを触れずにすんできた人も少なからずいます。50代になると、だいたいはPCを使えるのではないでしょうか。

では、若ければPCに強いかというと、そうではありません。最近の20代はあまりPCを扱えないということがわかり、私たちもちょっと衝撃を受けているところです。つまり、スマホは持っているけれど、家にPCがない。40代以上は先にPCを使い、あとからスマホを手にした。その下の世代は、学校でPCの操作を習いますが、ふだんはスマホを使う。ちょっとPCの習熟度が年代によって1周した感じで、興味深いです。

――デジタルに親しむには、どうしたらいいでしょう。

まずはスケジュール管理から始めてはいかがでしょうか。「社長がどこにいるのかわからない」と困っている従業員のみなさんの声を、よく聞きます。そんなときは、Googleカレンダーを使って社長のスケジュールを共有するところから始めましょう。社長を探して回る手間が省けます。

もっとも、無料だからと気楽に始めたのはいいけれど、すぐに飽きてやめてしまうのでは意味がありません。ある程度の投資をしたほうが、「やらねばならぬ」と頑張る。覚悟の問題かもしれませんね。

とはいえ、一歩を踏み出さなければ、何の成果も得られません。使う一歩手前で止まってしまうのが、いちばんもったいない。スケジュール管理など、できるところからデジタル化に挑戦し、とりあえず3カ月やってみることです。

廣木 秀之(ひろき・ひでゆき)

1967年生まれ。大学卒業後、大手メーカー系IT企業を経て、2006年に有限会社LTシステムを設立し、代表取締役。東京商工会議所の中小企業相談センター登録エキスパート、東京商工会連合会の登録エキスパート、荒川区高度特定専門家などを務める。

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