生成発展 テクノロジーで変革する中小企業の未来

一条高校授業風景
一条高校授業風景

情報編集力を鍛え 会社に付加価値を

―― AI社会で勝つために必要なのは『基礎的人間力』 
藤原和博さんのイノベーション論

教育改革実践家として、講演や研修、執筆など多忙を極める人物、それが藤原和博さんだ。

1955年生まれ。リクルートのトップ営業として頭角を現し、40歳で同社初となるフェローに就任。2003年には東京都初となる公立校の民間校長となり、5年に渡って教育改革を実践した。

さらに、ビジネスでも手腕を発揮。ブランドを超えた腕時計「japan」や“大人用ランドセル”と銘打ったビジネスリュック「EMU」など、これまでに業界を問わず数々のプロダクトをプロデュースし成功に導いている。

そのバイタリティや発想力はどこからくるものなのか。そして、AIとロボットが台頭する新しい時代に、どんな思考が経営者に求められるのか。藤原さんに聴いた。

文:山田井ユウキ
photo:伊原正浩

―― 「最初に腕時計を作ろうと思ったのは、自分がほしいと思えるものがなかったからなんです」

藤原さんは長年、中学時代に父親に買ってもらったという腕時計を愛用していた。だが、40年ほど使ったところで、とうとう部品不足で修理不可能に。ちょうどその頃、民間校長の契約が終了したこともあって、“自分への卒業記念”として腕時計を新調することにした。

理想に描いたのは、機能的でありながら、気品をまとい、日本的な色彩が感じられるデザイン。ところが、いくら調べても藤原さんが求める腕時計は存在しなかった。

そんな折、「時計企画室 コスタンテ」の清水新六社長と知り合い、長野県諏訪地方で、多くの腕時計がOEM用に生産されていることを知った。

「それで、聞いてみたんです。僕一人のためだけのOEMはできますかって」

清水社長から返ってきた答えは「ある程度のロットが確保できるなら」というものだった。1ロット200〜300個は覚悟した藤原さんだったが、蓋を開けてみるとわずか25個で生産が可能だった。

「腕時計は僕が思っているよりも、はるかに多品種少量生産に入っていると知りました。それで成り立つのか疑問だったのですが、調べると高級腕時計の原価は想像よりもはるかに安かったのです。それなら日本の技術で高い品質のものを作っても、それほど価格を上げなくてもすみます」

そこから話は一気に進み、藤原さんプロデュースの腕時計「japan」が誕生した。細部のデザインは元セイコーのカリスマデザイナー・岡谷哲男さんが担当。文字盤には日本の伝統色であり、源義経も好んだという藍色の漆塗りを世界で初めて採用した。

こうした開発の過程を、藤原さんを始めとする制作チームはすべてオフィシャルサイトで公開した。なぜ藍色なのか、なぜ漆なのか。一つひとつの要素から紡がれた物語は大きな話題となり、「japan」は発売と同時に売り切れるほどの人気商品となった。

次に藤原さんが挑んだのは、ビジネスリュック「EMU」の開発プロジェクト。仕事帰りにフィットネスなどに寄れるよう、汗で濡れた衣服を入れるための防水の収納部と、PCなどを入れるメイン収納部に分割。ハードシェル型で衝撃にも強く “ありそうでなかった”プロダクトに仕上がった。

当初こそビジネスパートナーを見つけるのに苦労したというが、「良いものは形にして見せたい」という思いから自費で3Dデータ化。それを3Dプリンターで削り出してサンプルを作った。実際にモノができたことで状況は好転、カタログギフトのリンベル社に持ち込んで、製品化に成功した。

まったく経験のなかった分野で新規事業を立ち上げ、成功を収めた理由について、藤原さんは「個人の情熱からスタートして周りが熱狂した」ことだと話す。

「考えているだけじゃダメ。渦巻きを作って、そこにエネルギーが流れ込んでいくようにしないと新規事業はうまくいかないんです。共感した人たちが集まってきて共鳴し、そこに磁場が生まれる。その磁場がさらに人を引きつけていくんです」

その法則は組織においても同じだ。

「『イノベーションが起きる風土にするにはどうすればいいでしょう』とか、『イノベーティブな意識改革をするにはどうしたらいいでしょう』とよく聞かれます。イノベーションを生み出すには、社員が会社人間から一皮むけて、企業内個人として目覚める必要があります。どんなイノベーションも、個人の思いが生み出すもの。そこに周りが熱狂するんです」

ビジネス分野におけるイノベーションという点で藤原さんが注目しているのが、AIやロボットによる革新だ。あらゆる仕事が影響を受け、医師や弁護士、会計士、税理士といった専門性の高い仕事でさえも例外ではないという。

「たとえば医師の場合、診断と治療という2つの仕事があります。治療はすでにロボットが使われていて、今後も手術用のロボットなどはどんどん登場するでしょう。また、診断というのは結局のところ、過去の膨大なデータを検索して近い症例を発見するということですから、それに関しては一人の医師の経験や記憶よりも世界中のデータに瞬時にアクセスできるAIが有利です」

会計士や税理士についても同様だ。

「どんなに高度であっても、計算のように一つの答えを導き出す仕事に関してはAIに置き換わるでしょう」

逆にAI時代になっても置き換わらないのは、“基礎的人間力”を生かした仕事だという。たとえば保育や介護など、高度なヒューマンケアを伴う仕事は、AIやロボットで代替することは難しい。

「基礎的人間力はAI社会になるほどクローズアップされてくると思います。笑顔が素敵とか、その人がいるだけで癒やされるとか。手術して意識が戻ったとき、ロボットに『ダイジョウブデスカ』って言われるよりも、医療のことはわかっていなくても母親に『大丈夫?』って声をかけられる方がホッとするでしょう。そういった、昔の産業社会では評価されにくかった部分が再評価されていくでしょうね」

また、イレギュラーな対応が必要な「判断」や「責任を取る」ことも人にしかできない仕事だ。

「運転士と車掌が良い例です。運転士はもしかしたら近い将来、AIやロボットで置き換わるかもしれない。だけど車掌の仕事はそれだけじゃない。酔っ払いが暴れているとか、車椅子の方の補助とか、急な事故対応とかも大事な仕事です。そうしたイレギュラーな事態に対応して、限られた情報で判断するという業務は人間の仕事であり続けるでしょう」

―― そうしたAI・ロボット社会の中で企業経営者に求められる能力とは何だろうか。

藤原さんが挙げるのは「情報編集力」だ。

単に情報を処理するだけの力ではない。正解が一つではない問題で仮説を立て、知識や技術、経験などを組み合わせて、他者も納得させ得る「納得解」を導き出す力、それが情報編集力だ。

「経営者はもちろん、すべてのリーダーやマネージャーに必要な力です。経営者自身が納得し、さらに従業員や顧客、スポンサーなど関係者全員が納得する答えでなければ、イノベーションを生むためのエネルギーは渦を巻きません」

その情報編集力を磨くのに求められるのが「遊び心」と「読書」である。

たとえばアイスのガリガリ君が生まれたのは、“片手で食べられるかき氷を作ろう”という遊び心からだったという。かき氷というスタイルを固持するのではなく、遊び心を尊重する企業風土があったからこそ生まれたイノベーションだったのだ。

「赤城乳業の企業スローガンは『あそびましょ。』なんです。これこそ、情報編集力の根幹を成すものだと思いますよ。情報処理力は勉強したり塾にいったりすれば高まります。あるいは社会人になって最初の5年間で徹底的に処理力を鍛えれば、仕事が速い人にはなれる。ところが編集力はそういうやり方では鍛えられないんです」

藤原さんによると、情報編集力は10歳ぐらいまでに様々な遊びを経験することで身についていくという。では、そこで身に付けられなかった大人はどのように鍛えればいいのか。

「若いうちなら海外に2年以上留学したり、国内なら寮に入れるなりして、親の庇護下から離れ自分の世界を作らせることが必要です。それも過ぎて社会人になった後なら、まずはさっき言ったように企業内個人として目覚めること。そして会社とは違うコミュニティに属してみるのがいいでしょう。たとえば地域コミュニティでもいいし、ボランティアで被災地支援をするでもいい。会社の中でぬくぬくと名刺を出して勝負できても、外の世界では何もできませんから」

また、本を読むことも重要なトレーニングになるという。

「情報編集力をつなげていく糸になるのが書籍なんです。雑誌よりも書籍がいいですね。僕もメディアファクトリーを創業した頃から年間100冊以上をノルマにしていて、今は160~170冊くらいは読んでいます。そうすると、読んだ本が500冊くらいたまったところで、自分の中で文章が生まれてくるんですよ。その文章を生む力こそ情報編集力なんです」

一方で、会社経営者は社員の情報編集力を鍛えることに力を注ぐべきだと藤原さんは指摘する。

「これからの経営者は、なるべく自社の社員に情報を処理するだけの仕事をさせないというマインドが大事です。社員には情報編集サイドに脳を使うようにさせることで、会社としての付加価値が生まれてくるのです」

そのためには社内での環境づくりが必要だ。

「お題目を語って会社案内に書くだけではリアリティーがありません。まずはプロジェクトを作り、失敗してもチャレンジを続けること。そういうことができる遊び心を持った経営者かどうかということは、すべての社員と家族が見ていますから」

とはいえ、社内で改革を起こすとなると一筋縄ではいかない。個人の思いから生まれたイノベーションの種をどう育てていくべきか。

「特に若い人は面白がる人が多いと思いますよ。予算がないといって尻込みするのはおじさんだけです(笑)。そういう面白がる人を5人集めましょう。性別も世代も気にしなくていい。そうやって面白がって集まってくるエネルギーが大事なんです」

自身と社員の情報編集力を鍛え、イノベーションを生み出す風土を作っていくこと。それこそが目前に迫ったAI・ロボット社会を生き抜いていくための推進力になるのだ。

奈良・若草山にて、一条高校校長時代

藤原 和博

教育改革実践家。1955年東京生まれ、78年東京大学卒業後、株式会社リクルートに入社。元同社フェロー。杉並区立和田中学校で、東京都初の公立中学校長を務める。奈良市立一条高校の前校長。著作には「10年後、君に仕事はあるのか?」「人生の教科書」シリーズや「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」などがある。

注目の記事

生成発展

絶えず活動しながら発展する

このサイトは、朝日新聞社と読者のみなさまが、中小企業経営の今と未来を考えていく場所です。最新テクノロジーがどのように企業経営を良い方向に変え、社会に価値を生み出していくのか。経営、ビジネスの視点を中心に最新の情報をお届けしていきます。

朝日新聞デジタルに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright © The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

朝日新聞デジタル

広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディアビジネス局

pagetop