中小企業経営の強い味方であるはずの制度が“知っている人だけが得をする”構造になっている――実は今、中小企業の半分が“国や自治体からもらえる資金”の存在に気づいていないのだ。中小企業庁の調査によれば、「国・都道府県・市町村などが交付する補助金・助成金」の認知率は51.5%、理解率は16.8%。利用率に至ってはわずか6%だ。
補助金・助成金は、働き方改革や軽減税率など政策に応じて新しいものが続々と登場している。特に注目したいのが、2017年に始まった「IT導入補助金」だ。業務効率化を目的としたITツールの導入コストを、経済産業省が一部支援してくれる制度。働き方改革関連法で業務時間の短縮を迫られている中小企業にとって、社内のIT革命を低コストで実現できる助け舟となるだろう。
認知度が低いということは、補助金・助成金を使いこなせば、他の企業と差別化できるチャンスでもある。そこで本稿では、中小企業の経営に関わる人にぜひ、知ってほしい補助金・助成金の種類や注意点、また注目されている「IT導入補助金」の基本や具体的な活用方法を解説していく。
制作:有限会社ノオト+朝日新聞デジタルスタジオ
補助金・助成金と一口に言っても、企業のステージや目的に合わせてさまざまな種類が用意されている。創業時にもらえるもの、新たな研究開発を手助けしてくれるもの、契約社員から正社員へのキャリアアップを支援してくれるもの……。補助金だけでも、細かく分けるとその数は3000種類以上になる。
しかも、1つの機関がこれら補助金・助成金を一括管理しているわけではなく、各省庁や地方自治体、財団がそれぞれ独自に提供・PRしている。この中から自社に合ったものを探すのは大変で、利用企業が増えない大きな要因となっている。うまく活用するためには、まず補助金・助成金の基礎を知り、さらに探し方のコツも押さえておくことが必要だ。
そもそも、「補助金・助成金」とは何か。冒頭で“国や自治体からもらえる資金”と言ったが、正確には“返済不要の公的な支援金”。国や地方自治体がそれぞれの施策を進めるために、その目的に合った会社や事業主の取り組みに対し、返済不要で資金を提供してくれるものだ。
では、「補助金」と「助成金」とはどう区別されるのか。実は資金の出どころに違いがある。「補助金」は主に起業促進や産業振興などを目的とした“経産省系の特徴を持つ資金”、「助成金」は主に雇用促進や能力向上などを目的とした“厚労省系の特徴を持つ資金”をそれぞれ指す。
そして、知っておくべきは補助金の方が採択のハードルが圧倒的に高いこと。助成金の審査はあくまで形式的で、一定の条件さえ満たせばほぼ必ず採択されると言っていい。これに対し補助金は、予算や採択件数に限りがあるため、申し込み件数が増えるほど倍率が上がり、厳しい審査のもと事業計画が優秀だと判定されなければもらえない。
公募期間も同様だ。助成金は通年募集しているため、都合のいいタイミングで申請できる。対して補助金は基本的に年1回、1~4週間程度。例年の傾向から公募時期を見計らって事業計画を練り、スピーディーに申請しなければいけない。補助金は使い道が事業経営に関わる分、支援額も数十万~数百万と大きいが、それだけ入念な準備が必要になってくる、と理解したい。
ちなみに「補助金」「助成金」の区別は、法律で明確な定義がなされているわけではない。経産省が補助金、厚労省が助成金と呼んでいるために発生した、いわば慣習的なものだ。例えば東京都では補助金のような性質を持つ資金であっても、全て「助成金」と呼んで提供しているなど、地方自治体によって使い分けが異なるケースもあるので注意したい。
もちろん、やみくもに申請したところで補助金・助成金はもらえない。国や自治体は、なぜ資金を提供するのだろうか。その目的をしっかり理解しておくことは、採択を狙う上での最低条件になるため、頭に入れておきたい。
例えば、国や自治体には「CO2などの温暖化ガスを削減する」「高齢者や障害者の雇用を促進する」といった政策目標がある。これを行政の努力だけで実現するのは難しく、国内企業が温暖化ガス削減や雇用システムの整備に取り組まなければ実効性に乏しくなる。そこで、政策に関連する事業に資金援助することでその実現を図ろうとするのが、提供側の狙いである。
だからこそ、競争の激しい補助金を申請する場合は、その資金を使った事業でいかに政策に貢献できるのか、事業計画で示す必要がある。計画の内容が良かったとしても、企業側に完遂する力があるのか疑わしければ採択率は下がるので、実現可能性を示すことも重要だ。
なお、補助金・助成金には返済義務も担保も発生しないが、次の点には注意したい。
当然だが「事前に」申請が必要だ。中小企業庁の調査によれば、補助金・助成金を認知しながらも利用しなかった理由で、2番目に多かったのが「手続きが煩雑だったため」(14.7%)。1番は「単なる情報収集のため」(58.2%)なので、実質的には手続きの煩雑さが最大の障壁となっている。
制度ごとに募集要件が異なるため、それぞれの背景まで理解して申請書類を作成するのはなかなか面倒でもある。とはいえ、以降は注意するべき点もそこまで多くなく、ここが最初にして最大の難関だと思って手続きを進めていきたい。
また、もらえるお金は後払いであり、全額でもない。したがって、自社であらかじめある程度の資金を準備しなくてはいけない。補助金の審査に通ると金融機関からの融資を受けやすくなるので、活用しながら資金を捻出するのがおすすめだ。
3000種類以上ある制度の中から、自社に合った補助金・助成金を逐一チェックするのはあまりにも大変だ。そこで、中小企業が支援を必要とする5つのケースを想定。それぞれで活用できる制度をまとめてみた。採択率が高く支援金額も高い狙い目のものや、関心の高まる軽減税率制度関連のものもある。気になる制度があればぜひ、詳細を確認していただきたい。
※全て2019年9月現在の情報です。
<主なケース別の補助金・助成金>
●トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
ハローワークなどの紹介により、就職困難者を一定期間トライアル(試行)雇用した場合にもらえる助成金。
●特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
ハローワークなどの紹介により、高年齢者や障害者等の就職困難者を労働者(雇用保険の一般被保険者)として継続的に雇用した場合にもらえる助成金。
●人材開発支援助成金(特定訓練コース)
労働者のキャリア形成を促進するために、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させる職業訓練などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を支援してもらえる助成金。
●キャリアアップ助成金(正社員化コース)
非正規雇用の労働者を正規雇用労働者へ転換、または直接雇用した場合にもらえる助成金。
●受動喫煙防止対策助成金
喫煙室や屋外喫煙所、そのほか受動喫煙を防止するための換気設備を設置した場合にもらえる助成金。
●ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
中小企業・小規模事業者などが認定支援機関と連携して、生産性向上につながる革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資などを支援する補助金。
●創業助成事業(※東京都限定)
東京都内で創業予定の個人、または創業から間もない中小企業に対し、創業初期に必要な経費の一部を支援する助成金。
●新製品・新技術開発助成事業(※東京都限定)
東京都内の中小企業者などに対し、実用化の見込みのある新製品・新技術の試作開発における経費の一部を支援する助成金。
●業務改善助成金
生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を支援する助成金。
●中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助金(軽減税率対策補助金)
軽減税率制度への対応として、複数税率対応レジや券売機の導入・改修、受発注システム、請求書管理システムの改修などを行った場合に、経費の一部を支援する補助金。
上記の補助金・助成金は、ほんの一部に過ぎない。自社に合った補助金・助成金を探すなら、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営するポータルサイト『J-Net21』の「支援情報ヘッドライン」がおすすめだ。その時期に公募している補助金・助成金を「地域別」「利用目的別」「支援制度別」にフリーワード検索できる。
掲載されている情報は、J-Net21スタッフが全国の中小企業支援機関サイトを毎日巡回して収集したもの。全ての補助金・助成金が網羅されているわけではないが、セミナー・イベントなど他の支援施策情報も含め、日々100件ほど更新しているのは心強い。用途に合わせて積極的に使っていこう。
働き方改革が叫ばれる昨今、中小企業にとって「業務効率化」への取り組みは急務ともいえる。しかし、中小機構の調査によると、「ITを活用した業務効率化・生産性向上」に取り組んでいる中小企業はおよそ46%。まだ半数以上がITを業務に取り入れることができていない。
同調査でIT未導入企業のうち、IT活用によって業務効率化・生産性向上が実現すると「思う」と答えたのは54%。活用に向けた課題では、「コストの負担が大きい」が66.6%で最も多かった。ITの必要性を感じながらも、資金面で二の足を踏んでいる企業が多いことがうかがえる。
そうした金銭的な悩みをサポートする制度として注目を集めているのが、2017年に国が開始した「IT導入補助金」だ。経産省が提供する補助金の1つで、中小企業がソフトウェアの導入やクラウドの活用といったITツールを導入するにあたって、経費の2分の1を返済不要で支給してくれる制度である。
職場のIT改革を検討している中小企業なら、積極的に活用したいIT導入補助金。注目すべき2つのポイントを紹介したい。
「せっかく導入したITツールを使いこなせるのか」「IT導入補助金の申請がスムーズにできるのか」このような不安を抱える事業者にとってありがたいのが「IT導入支援事業者」の存在だ。
そもそもIT導入補助金は、世の中のITツールなら何でも補助の対象となるわけではない。あらかじめ運営事務局に登録されたITベンダー「IT導入支援事業者」とパートナーシップを結び、そこからツールを購入しないと補助が受けられない仕組みになっている。中小企業などは申請する際、使いたいITツールだけでなく、それを販売しているIT導入支援事業者も探さなくてはならない。
面倒に思われるかもしれないが、メリットは大きい。IT導入支援事業者はただ仲介するだけでなく、ITツールの紹介と補助金申請にまつわる指導をセットで行ってくれるのだ。例えば、補助金の申請前に、パートナー企業を訪問してITツールの使い方の相談に乗ったり、申請に必要な事業計画作りを手伝ったり。採択後も実績報告をアフターサポートするなど、ITツール導入の成果が出るよう支援してくれる。ITに詳しい人材が社内にいない中小企業にとっては、頼もしい仕組みだ。
2019年度はもらえる補助額の下限・上限が2倍以上に跳ね上がり、大規模なITシステムを導入しやすくなった。
2017年度は予算が100億円で、補助額が20万円~100万円(補助率3分の2以内)。2018年度は“広く浅く補助”してできるだけ多くの企業にITツールを導入してもらおうと、予算が500億円に拡大、補助額が15万円~50万円(補助率2分の1以内)に抑えられた。しかし補助額があまりに少なすぎたせいか、補助件数は予定していた約13万件を大きく下回り、約6万件に留まる結果になった。
2018年の定員割れの結果を受けて、2019年度は“もらえる企業を絞って補助額を増やす”方針へと変更。予算は「ものづくり・商業・サービス補助金」「持続化補助金」と一体化して計1100億円となり、うちIT導入補助金への予算は100億円程度に引き戻された。代わりに補助額は40万円~450万円(補助率2分の1以内)へと大幅に拡大。より高価なITツールを使ったり、複数のソフトウェアやサービスを組み合わせたりできるようになった。
また、IT導入補助金の補助対象はメインとなるソフトウェアだけでなく、ソフトウェアの機能拡張といった「オプション」はもちろん、導入コンサルティング費や導入研修費などの「役務」も含まれている。補助額が上がった分、こうしたサポート面も手厚くすることで、さらなる導入効果を期待できるようになったのは大きいだろう。すでに2019年度の公募は終了しているが、来年度以降、予算や補助額、採択件数がどうなるのか注目しておこう。
補助金・助成金はどんな会社でも申請できるわけではない。補助金・助成金は中小企業の強い味方になり得るが、それぞれの制度が定める補助対象に、企業の規模や事業内容が当てはまらなければ申請することはできない。
IT導入補助金の場合も、卸売業ならば「資本金1億円以下かつ従業員100人以下」というように業種・組織形態ごとに補助対象が定められている。IT導入補助金の申請を検討している経営者は、まず自社の申請要項を確認しよう。
中小企業・小規模事業者など(日本国内で事業を行っている個人または法人)。対象となる企業の規模は、業種・組織形態によって次のように定義されている。
全ての事業が補助対象ではない。IT導入補助金を申請するには、以下の要件を満たす事業であることが必須になっている。
先述したように、補助対象となるのはあらかじめIT導入支援事業者が事務局に登録し、認定を受けたITツールのみ。ジャンルは、ソフトウェア、クラウド利用費、導入関連経費など。ソフトウェアの機能拡張などの「オプション」や、ソフトウェアの導入コンサルティング費などの「役務」も含まれる。
なお、補助対象から外れるITツールは、次のようなものだ。
2019年度は申請が「A類型」「B類型」の2つに区分され、それぞれ補助金の上限・下限額が異なる仕組みになった。Aの場合は40万~150万円未満、Bの場合は150万~450万円。
AとBどちらに申請するべきか。それはソフトウェアの導入金額だけでなく、そのソフトウェアがどれほどの業務をカバーしてくれるかによっても判断される。
Bの方は補助額が高い分、より多くの業務をカバーできるソフトウェアを事業に導入しなければならない。ちなみに2019年度のIT導入補助金の資料では、ソフトウェアを使ってカバーしたい業務のことを「プロセス」と表現している。下図の(1)〜(10)に書かれている、顧客対応、会計、在庫(管理)などがそれにあたる。
A類型は、上図の青枠から1プロセス以上、赤枠から2プロセス以上をカバーできるソフトウェアを選ばなくてはならない。B類型はさらに多く、青枠から3プロセス以上、赤枠から5プロセス以上をカバーすることが必須である。
ただし、導入を検討しているITツールがどのプロセスをカバーするのか素人目にはわかりづらい。申請時に担当となるIT導入支援事業者と、どのソフトウェアを事業計画に組み込めば「A類型」「B類型」の申請条件を満たせるのかよく相談するのがいいだろう。
中小企業や小規模事業者は、どのようなITツールを活用すれば生産性を向上できるのか。経産省が公開している実例をもとに紹介しよう。
長野県で自動車の販売や整備を行うフジカーランド上田は、100人ほどの従業員の勤怠データをExcelで管理していたため、データの手入力や修正に時間を取られていた。そこで人事管理と給与計算ができるITツールを導入。従来のタイムカードによる勤怠管理を給与管理システムに連動させることで入力や集計が自動化され、締日直前の作業を約10時間短縮することができた(詳細)。
介護の現場では、勤務時間帯が異なるスタッフが全員集まって情報共有することは難しい。大阪市内の介護サービス運営会社ライフケアでは、スタッフ間のコミュニケーションの円滑化が課題だったため、ビジネス用のチャットツールとタブレットを導入。さらに介護業務管理ソフトで手書きだった介護記録や帳票請求をデジタル化し、勤怠も管理ソフトでつけることで、年間400時間の業務時間削減を達成した(詳細)。
宿泊業者は複数の予約サイトに施設の詳細を掲載しているものだが、変更のたびに各サイトを更新するのはなかなか骨が折れる作業だ。伊豆高原で全5室のペンションを営むアースルーフは、これまで2つの予約サイトと自社ホームページで予約を取っていたが、情報更新のたびに半日以上時間を取られ頭を抱えていたという。しかし複数の予約サイトの情報を一元管理できるツールを導入し、更新が1~2時間程度で済むように。時間に余裕ができた分、宿泊客により丁寧な対応が可能になった(詳細)。
静岡県の地域密着型工務店・大塚工務店は、建築物の完成イメージや間取り・図面などの資料作りに多くの時間を取られていた。そこで、設計提案の迅速化と社員の作業負担軽減のために、2次元の設計ソフトから操作性が良い3次元CADに切り替えた。それにより資料作成の時間を短縮できるだけでなく、3Dで外観・内観の完成イメージを顧客に伝えることで設計の理解度・顧客の満足度が向上。提案から建築決定までの意思決定が早くなり、売上増加、粗利改善に結びついた。(詳細)。
このほか、運送業でタクシーを効率的に配車できる車両管理システムを導入することで従業員の勤務時間を短縮したり、飲食業で原価管理・業務管理システムを使って原価率を可視化して仕入れ価格を削減したりと、さまざまな業界で企業がIT導入補助金を利用して成果を上げている。
特に勤怠管理と顧客管理は、業態にかかわらずITツールで能率アップに成功している例が多い。IT導入補助金事務局サイトの活用事例から、自社の課題解決につながるヒントを探してみよう。
どのようなITツールがIT導入補助金の対象なのか。数ある中からおすすめのITツールを、IT導入支援事業者とプロセス(そのITツールでカバーできる業務)と共に紹介したい。
スマートフォンアプリの操作性が良く、初心者でも扱いやすいことから人気を集めるクラウド会計ソフトの草分け的存在。オンラインバンキング口座の明細自動取得やAIを使って、帳簿作成業務や入出金管理業務を自動化・効率化できる。帳票のデジタル保存も可能だ。
中小企業向け会計ソフトの老舗「弥生」による、クラウド上で複数人が同時に処理できる会計管理システム。画面共有や電話でのサポートが手厚い。
「Money Forwardクラウド会計・確定申告」「Money Forwardクラウド経費」「Money Forwardクラウド勤怠」「Money Forwardクラウド給与」など、株式会社マネーフォワードが送るバックオフィス業務のクラウドサービスシリーズ。使いたいツールだけを導入して連携することで、さまざまな経理・労務業務をクラウド上で一括して行うことができるのが魅力だ。
多機能なクラウド勤怠管理システム。紙のタイムカードやExcelで行う従来の勤怠管理方法からもスムーズに移行できる。勤怠を自動集計し、給与システムへの連携も可能。
2010年にNTTの研究所で生まれた国産のRPAツール。Windows PCにおけるさまざまな操作を記録・シナリオ化することで、繰り返しの入力作業を自動化でき、時間短縮やミスの軽減につながる。Excelやブラウザなどあらゆるアプリケーションに対応可能。
Googleが提供するクラウドベースのグループウェア。GmailやGoogleカレンダー、Googleドライブなど、個人でも利用できるGoogleのツールにビジネス向け機能を追加し、組織の基盤として活用できる。
企業や組織内の情報共有・コミュニケーションを支援するクラウド型のグループウェア。スケジュール共有や会議室の予約、掲示板、ファイル共有といった機能を備えている。
IT導入補助金対象のITツールを探すなら、事務局公式サイトが公開している「IT導入支援事業者・ITツール検索」を活用するのがいいだろう。検索ボックスで「(1)顧客対応・販売支援」「(7)会計・財務・資産・経営管理」など改善したい業務プロセスにチェックを入れることで、適したITツールと、それを販売するIT導入支援事業者がセットで表示される。
○ITツールの選択が簡単な「Amazon.co.jp」
2019年度に加わったIT導入支援事業者の中で、特に話題になったのがアマゾンジャパン合同会社だ。Amazon.co.jp内にIT導入補助金用の特設ページを設け、対象ソフトウェアを計450種類以上用意。アドビシステムズのクリエイティブ系ソフト4種を使える「Adobe Creative Cloud」、マイクロソフト社のビジネス系ソフト7種を備えた「Microsoft Office 365」、その他「会計freee」「Money Forward クラウド会計」「弥生給与」など人気ソフトを多くそろえている。
さらにソフトを8種類のカテゴリーに分けて整理し、「この中から最低2種類のカテゴリーのソフトウェアを組み合わせ、合計80万円以上300万円未満購入すれば2分の1の補助金がもらえる」と、補助を受けるための条件を簡潔化している。他のIT支援事業者のように、補助対象になるためにどのITツールがどの業務プロセスをカバーしているかいちいち考える必要がなく、申請側にとっては易しいシステムデザインだ。
IT導入補助金は成長を目指す中小企業にとってメリットが大きい。しかしながら注意点もあるため、それをまとめておく。
先述したとおり、補助金がもらえるのは事業の完了後だ。ITツールの導入にかかるお金は、まず申請側で全額調達しておかなければならない。2019年度は補助額の下限額が上がったため、A類型なら最低80万円、B類型なら最低300万円は必要となる。半額もらえるとはいえ、一定の資金を用意しなくてはいけないことは注意しておきたい。
導入したいITツールがあっても、IT導入支援事業者が事務局に登録し、認定を受けたものでなければ補助対象とならない。事務局公式サイトの「IT導入支援事業者・ITツール検索」で、どのソフトウェアやクラウドサービスが登録されているのか確認しよう。補助対象外のITツールもあるため、詳しくは「『IT導入補助金』対象のITツールをチェック」を参考にしてほしい。
補助額が跳ね上がった2019年度のIT導入補助金だが、審査の倍率もかなり上がったとみられる。2019年度の予算は推定100億円、補助予定件数は経産省の資料によると約6000件。2017年度は予算100億円で実際に交付決定したのは約1万4000件、2018年度が予算500億円で約6万件だったのと比べると、かなり数が絞られているからだ。
2020年の予算や補助額、補助予定件数については、まだ明らかになっていない。2019年度に続き少数の企業を手厚くサポートする“狭き門スタイル”なのか、2018年度のように多数の企業を少しずつサポートする“広く浅くスタイル”に戻るのか。いずれにせよITツールの導入を検討している経営者は、採択されるチャンスを逃さないように、今後の動向をしっかりとチェックしてほしい。
中小企業にとって、業務の効率化は早々に取り組まなければならない課題だ。2019年4月1日から働き方改革関連法が施工され、国内すべての企業に「年5日の有給休暇(有休)の取得」が義務づけられた。今は大企業だけが対象となっている残業時間の上限規制(月45時間・年360時間まで)も2020年4月から中小企業に敷かれることとなり、人手不足が深刻な中で、これらの残業規制や有休取得義務をクリアするのはなかなか簡単ではないだろう。
IT導入補助金を使えば、資金援助を受けながらITツールで生産性を向上できるだけでなく、IT導入支援事業者のサポートによって導入もスムーズにできる。さらに審査のために事業計画を立てることは、具体的にどの業務を効率化させるのか成長戦略を明瞭化し、結果的により大きな成果につながる。一石二鳥どころの話ではないのだ。
こうした業務効率化だけでなく、企業のステージ・目的に合わせてさまざまなサポートが用意されている補助金・助成金。中小企業の1割も利用していない今だからこそ、他社より先に活用してアドバンテージを獲得していきたい。
<参考文献>
中島典子(2018年)『[平成30年度版]会社が知っておきたい 補助金・助成金の活用ガイド』大蔵財務協会
小泉昇(2014年)『社長!会社の資金調達に補助金・助成金を活用しませんか!?』自由国民社
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